2025. 11 / 04 [ 建築のこと ]
古民家ガイド|旧粕谷家

旧粕谷家|東京都有形文化財
11月1日に板橋区立郷土芸能伝承館主催の「古民家で楽しむ秋の一日」というイベントで都内最古級(築300年)の古民家「旧粕谷家」の建築ガイドをさせて頂きました。
旧粕谷家住宅は、2018年に復元改修工事を経て東京都の有形文化財に登録された古民家です。江戸中期の享保8年(1723年)に建てられた名主の住宅で、移築されずに残っている貴重な建物になります。
私は建築史家ではありませんので歴史的価値を掘り下げる専門性の高いガイドではなく、この日は江戸の古民家と現代住宅との違いなどを織り交ぜながら、こうした伝統建築の「見方」「楽しみ方」を私なりにお話しさせて頂きました。

今まで趣味で多くの建築を見てきました。近代のものはもちろんですが古い茶室・武家屋敷・民家・洋館、神社仏閣にお城、さらには縄文時代の竪穴式住居。時にはダムや橋など興味を持ったものは何でも見に行きます。
単純に建築好きが高じてあちこちに行っています。建築を見て回るのは楽しいです。そして趣味も20年も続ければ知識も増えてきて、人前で解説をさせて頂けることとなりました。

伝統建築を「格」で見る
各地の古民家などを見て回って感じるのは、一般の方にとって伝統建築はどれも似たように見えてしまってわかりにくいのではないか?という点です。金閣寺や清水寺などわかりやすい特徴を持つ建物はいいのですが、江戸の古民家などは基本的には間取りも大差なく、設えも似たようなものとなりがちです。ただこうした建物でも「格」を見ていくと違いがあるものです。旧粕谷家でも茅葺の軒先にあるわずかな「反り」は名主としての格を現しています。他にも各室の天井の作り方などでも格を見て取れます。
こうした「格」から見ていくと建物を見る時に発見する楽しさが生れます。この「見方」を旧粕谷家をテキストにガイドさせて頂きました。
古民家と現代住宅の違い
古民家と現代の住宅の違いも面白い視点です。江戸時代でも勝手に家を建てることはできませんでした。御触書により民家の大きさや間取り・屋根材などは幕府・領主による制限がありました。農家であればより一層厳しい規制があるような時代でした。簡素に見える背景にはそうした点があると思います。あくまでも道具として機能的な民家という発想だったのだと思います。
もちろんお風呂はありません。茅葺屋根ですから火災の点で事実上の禁止です。実は内風呂が普及するのは遅くて高度経済成長期まで待たなくてはいけません。
ありそうでないのは縁側です。縁側は江戸中期から民家に広まって行ったとのことで、この粕谷家でも明治期の改装で縁側を設けています。
玄関も現代のような形では存在しません。これは農村ですから広い開口部の方が何かと便利だったからもあるでしょうけれど、階級が一緒ですから「格」として式台を持つ玄関などは不要だったのだと思います。
ないものとしては断熱材はありません。アメリカで商品化されたグラスウール(ガラス繊維系断熱材)も高度経済成長期に普及したもので、それ以前は断熱という概念がどこまであったのか?という状態だったと思います。ちなみに茅葺の屋根は断熱効果があります。三和土の土間も調湿効果があります。夏場などに古民家へ入ると涼しく感じますから一定の効果はあるんだと思います。ただ冬は寒い・・・
実際、大きな改装を江戸後期・明治・大正・昭和と4回施された旧粕谷家では、特に昭和期に部屋が細かく仕切られていきます。暮らし方もあるでしょうが寒さ対策の側面が強かったと推測しています。
屋根の茅葺きも大きな違いです。江戸時代の屋根材は大きく分けると4つです。瓦と茅と板、それに銅板葺きです。長屋によく見られる板葺きは風でとばされないように石を置いてあり、石置き板葺きといいます。
前述の御触書から民家は基本的に茅葺きです。江戸中期から瓦葺きが普及していくようです。これは大火予防の観点です。
民家に大黒柱はつきものですが、茅葺き屋根は重いです。一般的な民家で20t~30tと言われています。瓦屋根の3倍くらいでしょうか。当然支える柱や梁は立派なものになります。この小屋組みこそが古民家ともいえそうな特徴をもっています。武家屋敷よりもより力強く、プリミティブな点は古民家ならではだと思います。
自身の設計で、この小屋組みをよく現しているのは古民家のアイコニックな存在ゆえのことです。
茅葺きというのは明確な防水層はありません。積層された茅の厚みで防水をしていますが、そのためには屋根の勾配が大切になります。簡単にいうと沁み込む前に軒先から排水しないといけません。旧粕谷家では約40度の角度をつけてあります。雪国であれば60度を超えて作ります。茅葺のなんとも言えない柔らかい造形は、実は排水の都合から出来上がったものとなります。
古民家というもの
移築されずに残った旧粕谷家で静かに300年前の暮らしを想像するのは趣きがあります。何が変わり何が変わっていないのか。何を手に入れて何を失ったのか。
古民家が教えてくれること、考えを促してくれることがあると思います。
古いモノを残すことは何かと大変です。手間もかかるしお金もかかる。それでも古いモノに触れた時にしか得られない「何か」があり、それはなかなか言語化は難しいものの間違いなく大切なものですから、こうした貴重な建物が維持されることを願います。
最後にガイドの機会をくださった板橋区立郷土芸能伝承館 館長の岩間さんに感謝申し上げます。
写真撮影:akihito ishisone

