2019. 10 / 04 [ 建築のこと ]
発想のメソッド
「茶の間」っていい言葉だなと思います。お茶を飲む暮らしの空間という表現が素敵です。
畳敷きに、ちゃぶ台、タンスが並び。縁側を介して庭がある。古き日本の暮らし。
言葉から日常の「風景」が想像できるようで、いい言葉です。
設計者にはそれぞれ発想のメソッドのようなものがあると思います。
私の場合は、この「風景」というものを思い描きながら建築を形作っていきます。
写真の食堂に、ご夫婦が楽しそうに会話をしながら食事をしているのを想像してみてください。
低めの照明は円卓をすっぽりと包むように照らしてくれますし、
低い天井は囲われる安心感があります。そして、この食堂にはTVもないのでゆったりと
静かな「風景」と「時間」作ってくれます。
設計の要望以外にも、暮らしの様々なことを聞きながら設計にあたりますが、
何のためにしているかというと、お施主さんのことを「知らない」と風景の中にお施主さんが
登場しない。。。ためです。
一定のリアリティのようなものがつかめないと、いくら想像しても空振りになってしまいます。
専門学校を卒業する時に忘れられない言葉をかけてくれた先生がいます。
「設計とは一つの小説を書きあげるくらいの想像力が必要だ、卒業にあたりこれから建築の
世界でやっていける自信のない者は去れ、中途半端で続くものではない」と。
「おめでとう」ではなく。「去れ」と言った言葉は「小説を書きあげるくらい~」という
言葉とともに心に残りました。
建築の設計はストーリーがあって生まれてくるものです。
よいストーリーが、いい空間を生み出すのは経験上確かなことです。
とはいえ、できた家は饒舌なものでなく、寡黙な静けさに包まれているようなものになれば
いいと思います。