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2019. 11 / 12 建築のこと ]

ガラスを消してしまう魔法使い

ヨーン・ウッツォンという建築家は、有名なシドニーオペラハウスの設計者でありながら、

建設途中で設計者を解任されたエピソードで、どこか失意の建築家のイメージがついている建築家です。

 

この本に登場する建物は、キャン・リスという名でウッツォンの自邸です。

マヨルカ島にあるこの建築に関する情報や本はあまりなくて、あってもどの本も古本市場でなかなかの

プレミアがつくもので手が出しづらく。私の中で勝手に幻の建築状態になっているもののひとつでした。

 

建築家というと建築論を語るクールで強いキャラクターイメージって今でもあると思うのですが、

失意の建築家という“らしくない”イメージと数枚のストイックな建築写真の素晴らしさとがあいまって、

キャン・リスはいつの間にか私にとって特別な存在になっていました。

詳細に紹介されたこの本の出版は私としてはまたとないキャン・リスを知る機会でした。

 

そして、本を書かれた和田菜穂子さん同様に、私も長年の思い込みに驚きました。

表紙を飾るリビングは、水平線を眺める素晴らしい空間なのですが、

私が長年見ていた写真では、ガラスのない外の空間で海からの風が吹き込む場所にしか見えなかった。

でも実際にはガラスがあるんです。。。しかもはめ殺しのガラス。窓を開け放った写真でもなかった。

ガラスはいつだってそこにあったのに消えてしまって、あたかも外のように見えるだけなんです。

ウッツォンは魔法のようにガラスという存在を消し去ってしまっている。と思いました。

 

はめ殺しのガラスで、外の音は消されて風も入りこまない。

このリビングは、静けさの中で水平線を眺めるための場所というわけなのだそうです。

失意どころか挑戦的です。

自邸ゆえに生活の機能よりも、空間の美学に寄っていける強みを生かして、

この抒情的な空間のためにはどんな設計が必要なのか。

そのことを突き詰めてゆく姿勢をこの建築から感じます。

当たり前の存在を問い直すことでまた新鮮さが生まれています。

むしろガラスがあることで、よりいっそう特別な建築になりました。

 

 

 

 

2019. 10 / 29 日々の暮らし ]

moiとの時間

吉祥寺に"moi"というカフェがありました。

過去形なのはおしまれつつも先日閉店したからです。

その名の通り(moiはフィンランド語で「こんにちは」)フィンランドをコンセプトにしたカフェで、

2002年に荻窪で開店し2007年に吉祥寺に移転して今年閉店を迎えました。

 

私が最初に訪れたのは、おそらくは2003年頃の荻窪時代。

そのやけに重い入口の引戸を開けると、聞いていた通りアールトの椅子が並ぶ小さなお店がありました。

今でも最初にどこに座ったか、店内の景色まで詳細に覚えています。

今でこそ”北欧”は認知されていますが、17年前は北欧コンセプトのお店は珍しい存在だったと思います。

 

以来、何かにつけて店に通うようになり常連になりました。いつもとても居心地がよかった。

そして建築学生だった自分は、いつしかこんな空間を設計する人の下で学びたいと思うようになり、

ある時、カフェオーナーに設計者であるリオタデザインの関本さんを紹介してもらい、

おしかけるようにして入所し働かせて頂きました。

2007年に吉祥寺へとmoiが移転する際には、客ではなく設計スタッフとしてわずかですが

関わらせてもらった時はとても嬉しかったのを覚えています。

moiという場所がなければ、違う道を歩いていたのは間違いありません。

巡り合わせをくれたmoiという場所とオーナーの岩間さんに感謝しています。

 

ではmoiという時間が終わったのかというと、もう次の展開がはじまっています。

"いつもとても居心地がよかった" そのmoiの本質は継続されて、とても面白い試みに進んでいます。

 

ぜひのぞいてみてください

note

喫茶ひとりじかん

 

 

 

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