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2019. 07 / 23 建築のこと ]

奥行き | depth

住宅を設計していてふと素朴にして、とてもあたりまえな不安に襲われることがある。

「飽きたりしないだろうか?」

20年30年...と住み続けるお施主さん方に、空間自体を飽きられては設計者としての能力を問われる。

住宅建築は長い時間を過ごす空間を作りだす仕事。

この本質的な疑問を持たずして設計には向き合えない。

 

一つ意識することは、”奥行き”という言葉です。

それは、プランの上での奥行きを出すことであり、それが生む視覚的奥行きでもある。

素材にしても、できうる限り経年変化に味わいを持たせて”時間が生む奥行き”を作り出す。

人とともに空間も歳を重ねられるように設計する。

あらがわないことは受け入れること。

住み手と一体化してゆけば、空間には飽きるという言葉自体がなくなるように思います。

二人舎でも視覚的な広がりや、すでに40年という歳月を持っている既存の小屋組を見せて

”奥行き”を持たせるようにしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019. 06 / 15 建築のこと ]

法隆寺の屋根を見て

 

重塩害地域というものがあるのをご存知でしょうか。

内陸にお住まいの方はきっと身近に聞いたことのない言葉でしょう。

海沿いで、嵐が去った翌日に海側の窓が真っ白くなるほどに海に近い場所などがこの地域にあたります。

こういった場所でうかつに金属やコンクリートを使えば、あっという間に腐食してしまいます。

エアコンの室外機も塩害対策されたものを使いますし、設備機器も雨ざらしにしないのが基本です。

 

以前、こうした環境でも耐久性のある素材を調べたことがありますが、

結局は昔からの素材に行きつきました。屋根は瓦葺き、そして外壁は木材。

とかく瓦の素材としての優秀さはもう一度見直さなければ思うほどでした。

 

幕末の街並みを映したフェリーチェ・ベアトの写真には、延々と続く瓦屋根の江戸の街が映っています。

一つの素材で統一された都市の風景は美しくて、どこか凛としています。

4月に訪れた法隆寺でも屋根の美しさに心奪われました。

瓦葺きには、瓦屋根の家で育たなくとも変わらない。なんというか醤油が遺伝子レベルで

染みついているがごとく、日本人にとっての愛着やアイコンとしての側面があるのでしょう。

 

とはいえ、瓦が万能の素材というわけでは当然ありません。

「軒がなければ美しくはなれない」のが瓦葺きの性。

現在の都市部の住環境ではなかなか深い軒は設けにくい。

また瓦葺きは重いので地震に対しては、簡単に言えば軽い屋根よりもしっかり作らないといけない。

瓦自体コスト増な上、構造計画でもまた費用がかかる訳です。

本質的な優秀さがあっても時代に合うかはまた別の話になってくるものです。

若い方で自分の家は瓦葺きにしたいと思う渋い方もそうはいないでしょう。

 

自身の設計でも瓦葺きの経験はありませんが、重塩害地域では最良の素材ですからそうした敷地では

提案するかもしれません。どんな時でも「適材適所」が素材選定の指針です。

「適材適所」と言って思い出すのは、モダニズムの巨匠アルヴァ・アアルトで、

基本的に実績のある素材を使っていたにもかかわらず、フィンランディア・ホールの外装には大理石を

用いて失敗しています。イタリア産の大理石がフィンランドの寒さに耐えられず反ってしまい大改修を

余儀なくされています。

大理石への憧れがアアルトにあって採用したという話ですが、素材選定が環境に沿う必要性が

よくわかる話です。

 

素材を考えることは、環境を考えることであり、それは敷地への理解の度合いを示していきます。

答えは敷地にあるわけですから、現地調査は自ずと真剣勝負のようになります。

この機会に敷地のすべてを体感して記憶に残したいと思うと力が入ってしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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